長年お付き合いあるお客様より、調子が悪いことを相談されておりましたが、
症状から、どうもキャブでは無いな・・・腰上(ピストンリング摩耗やバルブシート摩耗)ではないか?
と思うところがあり、そうお伝えしたところ、エンジンオーバーホールとなりました。
届いたエンジンを分解していくと、案の定「ピストンダキツキ」リング摩耗、
バルブシートの隙間から光が漏れるくらい偏摩耗しており、それはそれで「予想通り」だったのですが、
腰下を開けてみると、結露?にしては「かつて激しく乳化していた痕跡」があり、いろいろ調べてみたら、
ブリーザーホース取付口が劣化してグラグラで、どうやらソコから雨水が混入していた様子でした。
当初は腰上だけのリフレッシュで完調するかな?と思っていたのですが、
クラッチ板の交換ついでに腰下を開けて、乳化の痕跡を見つけられてラッキーでした。。。
・・・という事で、トランスミッション中心とした腰下の部品は超音波洗浄機でシッカリと洗浄を行い、クランクサイドベアリング、トランスミッションベアリング、バランサーベアリング等は全て交換です。
クラッチはオーナーも判っていたとおり、クラッチスプリングは劣化して短くなっており、
クラッチ板は全て使用限度を超えて、真っ黒に炭化していました。
炭化したクラッチ板は、徐々に剥離や破壊が進み、オイルを何度交換しても真っ黒にしてしまいます。
空冷単気筒のエンジンはオイル量が少なく、非常に劣化速度が早いです。
可能であれば、入れているオイル量と同じ走行距離(1000ml=1000Km)くらいで交換できれば、
ベストコンディションを長く維持できると思います。
オイルは人間の血液と一緒で、新しいオイルになったこと。早く交換することで悪い事は一切ありません。
馴染みも熟成も無く、エンジン起動時間=劣化している時間と考えて良いのです。
ピストン&シリンダーは、基準値をとっくに超えていたので、TKRJ製のリプレイスピストンを用いて、
0.25mmオーバーサイズ加工を施しました。
余りに縦傷が多かったので「0.5mmになってしまうかも?」と思ったのですが、
なんとか0.25mmでイケました。。。また劣化した時に、0.5mmが入れれますしね。
私が最も信頼するボーリング屋さんの代名詞ともいえる、美しいホーニング目です。
シリンダーヘッドは、IN/EX共にバルブシートが偏摩耗していた為、新品に交換
特に軸端の摩耗が顕著で、軸端を削らなければバルブが抜けないほどでした。。。
それも、シートカット&擦り合わせを行い、気密性もバッチリです。
シリンダーとの合い面は、さほど歪みも多くなかった為、軽く修正して続投です。
空冷エンジン(特に空冷多気筒)は、ヘッド面が凄く歪むのですが、セローのヘッドは丈夫ですね。
定番の「カムカラーベアリング化」と、マニュアルデコンプアームはカットして軽量化。
カムシャフト自体に焼き付きは無く、ロッカースリッパーも凹んではいなかったので、
コレも定番の「リターンスプリング」を外してフリー化することで、バルブ軸端の偏摩耗も抑えられるでしょう。
このエンジンは、セル式になった初代のエンジンで実に30年選手。。。
届いたときからシリンダーもシリンダーヘッドも塗装の内側から錆びていてボロボロでした。
綺麗にする意味も含め、ソーダブラストで錆と塗装を落とし、必要なところには再塗装しました。
それと、昔のエンジンあるあるですが、全体のボルトが「プラスビス」でクラッチカバー等もヘッドが舐めているものが多かったため、ブラックニッケルのヘキサゴンヘッドボルトに交換。
オリジナルの「チタンゴールド・フィラーキャップ」を取り付けました。
レストアではないので、全てを磨け上げたわけではないですが、元々の塗装をコンパウンドで磨いたため、届いた時よりも綺麗になったと思います。
お客様も、汚いエンジンより綺麗なエンジンの方が、愛情も甦ると思いますしね。
ついでというか、元々の不調の原因?とされていたキャブレターも、ソーダブラスト処理を行い、
オーバーホールを行いました。
一部の部品はアッセンブリー設定で、小さなO-ringやワッシャーなどは、Kawasaki純正のミクニキャブ部品を使いました。ドレンホールのテーパー部がカジっているため、元々漏れが「癖」になっていたと思うのですが、何とかかんとか修正をしてみたので、様子を見て欲しいですね。
30年選手なのでイロイロありましたが、愛される名車を長く乗り続けようと思うお客様の心に、
応えられるエンジンメンテナンスを行う事を心がけています。
御用命ありがとうございました。